【SEMBAサロン96thレポート】「芸術家が企業の中ですべきこと ~アート思考とは何かを考える~」(小島和人ハモニズム氏)
今回のSEMBAサロンは、株式会社ロフトワーク プロデューサーで現代美術作家の小島和人ハモニズムさんに、課題解決のためのフレームワーク「デザイン思考」に対して、個人的な問いから、まず課題を探し出す「アート思考」について、お話しいただきました。
まずはじめに、小島さんが取り組まれている芸術活動についてお話しいただきました。テーマにされていることは「驚かせる」。観た人の価値観を揺さぶり、「問い」を与え、考えてもらうことを大切にされているということです。これまでに、ギターで絵を描く、ファッションショーでモデルに絵の具を浴びせる、また、光の三原色R(赤=喜び、怒り)G(緑=楽しみ)B(青=悲しみ)を色に応じて感情設定して擬人化させたり、なんばの引っ掛け橋に人参を並べて畑を制作したり(難波には元々なんば葱の畑が多くあった)、ある夫婦を宇宙人に仕立てて写真を撮影(IPAコンテスト入賞)など、常識を覆すアートパフォーマンスをして、観る人を「驚かせて」こられました。作品づくりで大事にされていること、伝えたいことは、「問い続ける」こと。また、問いに対しての「答えを考える」こと。分かる人、分からない人、私はこう思う、ということを共有することで価値の差異を見つけることが現代アートの本質の一つだということです。
ご自身のアート活動のご紹介に続いて、「アート思考」について解説。「課題そのものを見つけること」、「問い続ける人、自分で考え発言・行動する人が増えることにより、多様なアプローチが生まれる。」、「未来への可能性の問いの強さと広さ」、「アートの力によって、未来を問い続ける力を養うこと。」など考え方は人によりさまざまですが、共通するものとして自分自身の「問い」を軸に考えるということです。また、デザインシンキングに置き換わるものだと考える人もいますが、全くの別物で、2つあってこそ役立つものであるということです。ただ、特別なフレームワークはなく、すぐに身につくものでもないため、問いかけについて考えていくのが大事になってくるということでした。
次にデザイン思考とアート思考の違いについて「飛んでいる飛行機を見た時に何を考えるか?」を例に挙げ、デザイン思考であれば「利用者はどんなことに不満を持ち、どんなことを改善してほしいんだろう?」という”ユーザー言及”であるのに対して、アート思考では、「自分の羽根で飛んでいけないか?宇宙まで飛んでいけないのか?」という”自己言及”になり、個人的な自己言及から考えるため、他とは違う価値観、まだ誰も分からない未来に対する問いかけが生まれてくるのでは?ということです。小島さんが考えるアート思考の使い方は、アート思考でまず「問い」(課題)を産み、デザイン思考でそれを現実的な物事にしていくということです。
小島さんが提唱するものとして、Aesthetic Design(美学のデザイン)があり、これは仕事や私生活においてのこだわりや、自分自身の美学を構築すること。小島さん自身もこれにのっとった上でアート表現をし、お仕事もされているということです。美学は自分自身の指標であって、同じ要素を他人に求めず、各々が違うことで「多様性」を生む。その上で自分自身が他人とのバランサーとして機能するという意味で、 HARMONY ISM(ハモニズム)という名前でアート活動をされているとのこと。
また、アート活動をされている中でお金じゃないものの価値の大事さが分かってきたということで、それをどのように表現すればいいのかを考え、現在実験的に「ROOM but HOTEL」という取り組みをされています。これは、自宅の一室にクリエイターに無料で宿泊してもらい、その代わりに作品やアイデアを残してもらうというもので、実際にご自身でこういったロジカルな思考を組み込んだ芸術活動で「問い」を生み、その課題解決に向けて取り組まれている事例もご紹介いただき、とても説得力のある内容になりました。
最後に、これまでロフトワークで取り組まれてきたオープンイノベーションや、サービスデザインワークショップの事例、MTRL KYOTO、Fab Cafeをご紹介いただきました。
終了後の懇親会では、小島さんのアイデアで、参加者のみなさんが「名前」、「仕事をする上での美学」、「生活の中での美学」を書いたネームシールを胸に張り、そのシールを見ながら話すことで初対面の方同士も話題を作りやすく、とても盛り上がりました。
【日 時】12月21日(金)19:00~21:00 後半は懇親会
【スピーカー】小島和人ハモニズム氏(株式会社ロフトワーク プロデューサー/現代美術作家)
【参加人数】18名