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第9回 人類とデザイン – その4

プレ産業革命、大量生産の始まりは宮廷の食卓を支える陶磁器であった。そして、デザイン職能が出現した! *ベルサイユ宮殿前景、鏡の間、庭園(完全なシンメトリーレイアウト) 17世紀に入り、企業組織が誕生、量産活動の始まり、そして、デザイン職能が誕生する。 一般的に「大量生産」という言葉からは産業革命以降の均質、同一形状の製品が、コンベアベルトの上を一定のスピードで流れ、 沢山の従業員が決められた作業を着実に実行することによって最後には均一な性能を持った商品として 市場に出荷されるという共通の認識が一般的であると思われます。 しかし、産業革命以前の16世紀前半には陶磁器、家具、タペストリー(壁面装飾用の織物)等が、 それまでの家内工業的な生産手法による小規模な受注生産方式から脱して 手作業という手法はそのまま専門性を生かした分業と流れ作業による量産が始まりました。 その背景としては、前項で述べた通りルネッサンス時代にイタリアから始まり、 ヨーロッパ各地に拡大した都市化の進展により自由度の高い市民社会が形成され、 それまでの一握りの王侯、貴族に代わり商人に代表される裕福な市民層が 生活に関わるすべての面で一層の充実を求め始めたことがその背景にあったと言えます。 それに伴い、良質の陶磁器、家具、室内調度品、衣服、身辺装飾品等の需要が拡大し、 地域を越えた交易によりヨーロッパ全域を対象とするマーケットが形成されることになりました。 この様な急激に拡大する需要に対応するため、それまでの小規模な工房による生産方式から 多くの職人を抱える大規模な工場形体に変化することになりました。 明らかに産業革命前夜という状況が始まっていたと言えます。 *マイセン、ロイヤルコペンハーゲンの陶磁器、ゴブラン織りタペストリー 17世紀に入ってヨーロッパの経済活動の中心が太陽王と称されたルイ14世の統治による中央集権体制により国力が急速に増大し、 国王一族、宮廷等が産業の強力なパトロンとなり、ゴブランに命じて王立家具製作所を設立し、 ゴブラン織りの壁掛け、キャビネット家具、貴金属装身具等を生産することになり、最盛期には数百人規模の職人を抱えるようになりました。 また、1709年にオーストリアのサクソニー大公が設立した「マイセン製造所」では、 宮廷お抱えの芸術家や高度な専門技能を持った職人を多数集め、高品位の陶磁器の生産を開始しました。 初期の段階では宮廷ご用達に止まっていましたが、生産規模の拡大につれてヨーロッパ全域の富裕層の市場にも供給されました。 これらの事例で明らかなように当時の国王、宮廷、貴族らが近代の資本家の役割を果たしていたとことが明白であり、 デンマークの「ロイヤルコペンハーゲン」、中国の官窯「景徳鎮」も例外ではないと言えます。 この段階で専門分化が明確になり、多様なサイズの皿を始め、カップ、ポット、そして室内装飾も兼ねた 壺等の原型を作る人、ろくろを使って製品を作る人、高熱の窯で焼成を行う人、芸術家による原画をもとに絵付けを担当する人等々、 現代のようにコンベアベルトの上ではないが、いわゆる流れ作業が始まっていました。 そして、明確な定義はなかったものの原型の製作、当時の宮廷文化に対応する装飾的な絵付け等、 現代のデザイナーに通じる職能が定着し始めていたことは間違いありません。 因みに”Design”という言葉は「指示する、表示する」という意味を表すラテン語の”Designare”が原点とされているが 現在では世界の殆どの国で”Design”、”Designer”が使われています。 *ウエッジウッド社の陶器セット その後、18世紀に入って英国では現代でも世界的ブランドとして評価されている「ウエッジウッド社」は 産業革命の原動力となった蒸気機関の前段階として、水力を動力源とした金属器、陶磁器を量産する生産システムを実現しました。 そして、現代に通じる三つの技術革新となる高級な磁器に近い白さを実現する原材料の開発、 手作業の”ろくろ”に代わる中空の鋳型に原材料を流し込むことによって均一な形状の原型を量産するシステム、 そして、手描きに代わる転写印刷手法も開発され量産が進むこととなりました。 結果として均質な商品を安価で、しかも安定的に供給することが可能となりました。 これらの技術革新は全て大量生産に適した手法であり、結果として均質の製品を安価で、しかも安定的に市場へ供給することにより 徐々に増加し始めた中流家庭を対象とするマーケットを確立することになりました。 次項には本格的な産業革命、そして、近代デザイン運動は 意外にも機械生産に対するアンチテーゼが原動力となったことを中心に述べる予定です。 この項終わり。 脚注:本稿の執筆にあたっては長年にわたって交流のあるジョン・ヘスケット氏(英)の著書「インダストリアルデザインの歴史」から多くを引用させていただきました。
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