妄想通りじゃない。だから、やりがいがある。象印マホービン 遠藤 麻美さん【前編】
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「暮らしを創る」という理念のもと、幅広い家庭用製品を国内のみならずグローバルに送り出している象印マホービン。今回は、同社のプロダクトデザイナーとして活躍する遠藤麻美さんの登場です。前編では、就活エピソード、遠藤さんが手がけるデザインについて伺いました。
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象印マホービン株式会社
デザイン室 サブマネージャー
遠藤 麻美さん
[ Profile ]
Mami Endo ● 武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科卒。2008年入社。これまで、おかゆメーカー、布団乾燥機、ステンレスマグ、炊飯ジャー、オーブントースターなどを担当。
リラックスできてしまった(!)最終面接
大阪デザインセンター(以下、ODC) もともとプロダクトデザイナーを目指していたのですか?
遠藤さん 大学に入る時点で、プロダクトデザインを勉強したいと思っていました。就職活動では、白物家電のメーカーとカメラのメーカーに絞っていました。美術大学を目指す人は、先のことまで決めている場合が多いんですよね。私の通っていた学科の場合は、「インハウスデザイナーを目指していて、どこかの企業に就職してメーカーの製品のデザインをしたい」という学生が多かったですね。
ODC 象印マホービンさんを志望した動機は?
遠藤さん 弊社はデザイナーを毎年募集しているわけではなくて、実は、就活時にあまり意識していなかったのです。たまたま3年生の終わりの3月ごろに募集が(学校に)来ていて、ポットなど白物家電のジャンルもあるし、電気を使っていないジャンルもあるので、飽きずに仕事できそうだなと思って受けました。就職四季報的な情報は全然チェックしていなくて、親に聞いてみたら知っているし、大きい会社なんだぁみたいな感じで(笑)。
ODC 就活時のエピソードはありますか?
遠藤さん 1次、2次面接は東京でしたが、最終で大阪に呼ばれたときに、新幹線を乗り間違えて2時間ぐらい遅刻してしまいました。めちゃめちゃあちこちに電話して、(大学の)就職課に掛けて、もちろん会社にも掛けて…。親にも電話して怒られて(笑)。それでもう通らないなと諦めて、開き直れたと言いますか、逆にリラックスできたのが良かったのかもしれません。
ODC デザイン室には何人おられるのですか。
遠藤さん 室長を含めて11名です。入社した時は、平均年齢が高めで、女性の先輩も1人しかいない状態でした。今は若くなってきまして、平均30台後半ぐらいです。男女比も半々ぐらいになって、だいぶ変わったなと感じています。
ODC お仕事はカテゴリーごとの担当制ですか?
遠藤さん はい。現在は、ステンレスマグ関係、ホットプレートやグリル鍋などの調理器具を担当しています。弊社は4つの事業部(※)に分かれておりましてに分かれておりまして、その中の2部門を担当しています。
※第1事業部(炊飯ジャー)、第2事業部(ホットプレート・空気清浄機など)、第3事業部(ステンレスボトルなど)、第4事業部(電気ポットなど)。
ODC 担当は替わるのですか。
遠藤さん 製品によって異なりますが、長くて3~4年、早ければ1年で替わることがあります。
「昔の顔」では売れません。
ODC 生活用品はだんだんシンプルなデザインになってきていますね。
遠藤さん あまり生活を邪魔しないという方向に、どの業界もなっていると思います。この10年ぐらいはその流れでしょうか。SNSの発達が影響していると思います。ある流行が生まれるとその流れに沿って皆が動くというところがありますね。リーディング・カンパニーの製品を多くの人が見るので。
これまでは店頭での購入が圧倒的に多かったので、お店で目立つほうがいいという考え方もあったのですが、今はオンラインで購入されたり、自分の家に置いて、しっくりくるかどうかをすごく意識される。周りの商品も変わってきたということもあるので、「昔の顏」のままでは売れなくなっています。炊飯器ですと、トップにパネルがあって、形はスクエアで、キッチンにすっと収まるようなイメージのものになっています。
製品が置かれる場所も変化しています。キッチン自体の形態も変化していまして、インテリアとしての調理家電という考え方になってきています。質感もツヤがあってギラギラしたものよりも、マットで落ち着きがあり、目に飛び込んでこないものが主流です。
遠藤さんがデザインした炊飯器(NW-ES07-BZ)。「置かれる場所を意識して、本体の質感とコンパクトさにこだわりました」
同社ショールームのグッドデザイン賞コーナーにて。遠藤さんの左側の棚(ステンレスマグ、炊飯器)はすべて遠藤さんが担当した製品。「ステンレスマグでは、iFデザイン賞(ドイツ)もいただきました」
ODC 商品のスペックの高さはデザインに影響するのですか?
遠藤さん 直接的には関係ないのですが、炊飯器ですと、いくつかラインナップがあって価格帯も異なりなすので、そのランクにふさわしいデザインかどうかというところはあります。
最上位のモデルを作ったときは、下位モデルとは大きく形を変えたいという思いがありましたので、造形の取り方をはっきり変えた形状で出しました。並べた時の見栄えや、より付加価値を持たせることを意識しました。ただ、どの価格帯の商品であっても、お客様が気に入って選んでいただけるような外観になるようにデザインしています。
ODC ステンレスマグのデザインのポイントはどういうところになるのでしょう。
遠藤さん 他社からワンタッチで開けられる、すごく軽いタイプのモデルが出まして、当社もそのようなモデルを開発することになりました。ステンレスの厚みを薄くすることや、キャップの部分も樹脂をなるべく使わないことで軽量化を図りました。キャップ部分に制限がある中で、誤って開かないようにつけているストッパーの部分を、できるだけ目立たない造形にして、少し丸みをつけたりして、あまり癖のないデザインにしたのがポイントです。
遠藤さんがデザインしたステンレスマグ。左からSM-SF60-AD、SM-SF48-AM、SM-SF36-PA
ODC 制約がある中でのチャレンジですね。
遠藤さん そこが学生のころにしていたデザインとは違うところだと思います。課題とかで何かをデザインするというのがあると思いますが、製品本体の外に出しても良いところ、中に絶対に納めなければならないところというのを、学生時代は、そこまで厳しくは考えてなかったです。学生の時、製品を買ってきてバラしてみて、こういう構造になっているのかと見たことはあったのですが、入社して、実際に製品をデザインするとなると、全然違ったなぁと。条件、制約がたくさんあるので、全然妄想通りにはいかないというか(笑)、描いた絵の通りに作るのはなかなか難しいという感じですね。
ODC 入社されてすぐは、先輩にしごかれましたか?
遠藤さん それは全然なかったです(笑)。当社は本当に恵まれていて、入ってすぐに、担当商品をポンと持たせてもらえるんです。もちろん、先輩にフォローしてもらいながらですけれども。入社1年目から、他の年次の社員と同じように仕事をさせてもらえるんです。他社の友人からは、「最初はリモコンだけデザインしたよ」というような話も聞いたので、全く違うんだなと思いました。1人でまるごと受け持つので、やりがいがありますね。
※撮影時のみマスクを外していただきました。
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