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書体は何とでも共演できる。 モリサワ 吉村淳美さん【後編】

※この記事は、noteのマガジン「Narratives [先輩かく語りき]」でも配信中です。先輩デザイナーたちのリアルボイスは、同じくnoteの「デザイナー、今こんな感じです。」でも発信中! ぜひ、チェックしてください。

 

教授を驚かせたという内定獲得から6年、書体デザインという仕事への思いとは?インタビュー後編では、吉村さんの成長を促した先輩の言葉、これからの目標、後輩へのメッセージをお聞きしました。

 

<前編の記事はこちら

 

株式会社モリサワ
フォントデザイン部
吉村淳美さん

 

[ Profile ]
愛知県立芸術大学デザイン・工芸科卒業。タイプデザイナーとして2015年にモリサワ文研株式会社に入社、2018年より株式会社モリサワのフォントデザイン部に在籍。Clarimo UDシリーズUD新ゴ(AP版)などの開発に携わる。和文・欧文の開発に従事。

 

 

あれもこれも120点を目指さなくていい

ODC ご自身で好きな字というのはありますか?

吉村さん 特にないのですが、自分の名前や同僚の名前に使われている漢字に出会うと、勝手にプレッシャーを感じます(笑)。その字をひいきにするとか、特別に何かするとかいう訳ではないのですが。

ODC 逆に難しいと感じる字は?

吉村さん バランスが取りにくい字は難しいですね。左右がアンバランスとか、どうしても下が空いてしまう文字です。空白を無理に埋めようとすると、その文字っぽくなくなるし、読みづらくなってしまいます。ほかに苦労する文字でいうと、画数の少ない文字はあんまり好きじゃないんです。デザイナーの先輩からも、画数の少ない字は構成要素が少なくて難しいと聞くことがあります。画数が多いとスペースが限られるため、点やハライなどのパーツをここに置くしかないないという制約が出てきて、むしろやり易いです。

バランスが取りにくい字の例

 

ODC これまで先輩に言われたことなどで、心に残っているものはありますか?

吉村さん 入社2年目に、お仕事が二つあって、別々の先輩と一緒に仕事をしていました。その時、それぞれの場で、同じような注意を受けることもあれば、違う注意を受けたりもして。前に注意されたから良かれと思ってやったら、「そうじゃない。なんで相談しないんだ」と言われたことがありました。それで、どういう風に仕事したらいいのかなって悩んでしまって。デザイン上のことではなくて、会社の一員として、についてだったのですが…。

そんな中、仕事にテンヤワンヤしてパニックになっていた時に、一人の先輩から、「やることをやってくれれば、私にとっては100点だから」と言われました。「人間だから頑張れない日もある。頑張れない日は頑張らなくていい。やることをやってくれれば、それで100点だよ」って言ってもらえて。

都合よく解釈しちゃうと良くない言葉ではあるのですが、あれもこれも120点目指してやらなきゃと気を張っていたのが、そう言ってもらったことで楽になれました。1個1個片付けていこうと思えるようになって、それから落ち着いて仕事できるようになった気がしますね。

 

飽きないこと、根気強くあること

 

ODC お仕事をされる上で、ここはこだわりたいという部分はありますか?

吉村さん どんな文字も適当には扱わないことですね。マイナーな文字、読み方もわからない文字もいっぱいあったりするんですけれど、「実はあの文字、テキトーに作っちゃったんだよな」とか、心残りがないようにしたいです。その時、できるだけのことはしようという気持ちでやっています。あとは、独りよがりにならないように、と。いろんな人の意見を聞いて作業をしたいなと思っています。

ODC 今後、こういう書体を作ってみたいというのはありますか?

吉村さん あまり夢がないようなことを言ってしまうのですが、こういうデザイナーになりたいという野望のようなものはないです。皆さんに喜んで使ってもらえるものを作りたい。私たちタイプデザイナーにとって、その書体を使うデザイナーだけではなくて、雑誌や、パッケージなどの制作物で目にしてくださる方もお客様になります。地域を問うものでもないので、いろんなところで使ってもらえるものを作りたいです。

あと、ロマンチック発言かもしれないですけれども(笑)、書体って、何とでも共演できるものだと思っていて。俳優さんだったり、アニメや漫画とか、何でもそうですけれども、ちゃっかり共演ができるものだと。自分の好きなものに関われたらいいなと思っています。

ODC 今、推しているアニメは?

吉村さん 最近、特にコレというのはないのですが、いろんなものが急にブームで来ます。昔、見ていたものに再びハマって、また見て、また落ち着く…みたいな。卒業制作を作っていた頃、「弱虫ペダル」と「SHIROBAKO」が夜中に放送されていて、作業しながら、ちょっと休憩というときに見たりしていたので、今また見ると、そのころの空気感を思い出すというか。ちょっとセンチメンタルになったりしています(笑)。

 

 

ODC 学生時代にこれをやっておけばよかった、というのはありますか?

吉村さん 学生時代、もっと勉強したらよかったかなっていうのはありますね(笑)。その分、会社に入って、仕事をしながら学んできました。学生の頃って、勉強や調べものは嫌いだったんです。なので、勉強は面白いなって思えるようになったのは会社に入ってからです。例えば、もともと欧文の事とかは全然知らなかったのですが、勉強しだすと面白くって。ゼロからのスタートでしたけれど、仕事に必要なことだから、興味を持って覚えられました。

ODC 会社として、皆さん、勉強される気風がある?

吉村さん そうですね。お互い、質問し合える風通しの良さがあります。質問されたときは自分で調べてみたりとか、誰かが質問することで相乗効果が生まれていくところがあります。上の人たちもフレンドリーなので、話しやすい空気感があります。

ODC 就活生にメッセージをお願いします。タイプデザイナーに大切な資質って何でしょう。

吉村さん 1個の仕事が長いので、飽きない、根気強いということでしょうか。学生の皆さんが思っている以上に地道さが求められる仕事です。そういうのが苦にならない人にはいいんじゃないかなと思います。学生時代、和菓子屋さんでバイトしていたのですが、ひたすらおまんじゅうにフィルムを巻くとか、全然嫌じゃなかった。そういうところが向いているのかな(笑)。ちなみに、普段の手書きの字が上手か下手かは関係ないです。書体デザインに興味を持ってもらえたらうれしいですね。


<前編の記事はこちら

 

ひと文字ひと文字が、人によって作られている。吉村さんの静謐なたたずまい、丁寧な受け答えを通して、そのことの尊さ、素晴らしさに改めて気づかされました。吉村さんがかかわる書体は、今後、どんな人・モノと「共演」するのでしょう。地球を離れて宇宙にだって出て行けるかも。緻密な作業を積み重ねて生み出した書体デザインの先には、ロマンに満ちた果てしない時空が広がっています。

 

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