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文字自体が発する情報に気がついた。 モリサワ 吉村淳美さん【前編】

※この記事は、noteのマガジン「Narratives [先輩かく語りき]」でも配信中です。先輩デザイナーたちのリアルボイスは、同じくnoteの「デザイナー、今こんな感じです。」でも発信中! ぜひ、チェックしてください。

 

株式会社モリサワ
フォントデザイン部
吉村淳美さん

 

[ Profile ]
愛知県立芸術大学デザイン・工芸科卒業。タイプデザイナーとして2015年にモリサワ文研株式会社に入社、2018年より株式会社モリサワのフォントデザイン部に在籍。Clarimo UDシリーズUD新ゴ(AP版)などの開発に携わる。和文・欧文の開発に従事。

 

Clarimo UDシリーズの一つ、「Clarimo UD PE」

 

「写真植字機」発明に始まり、デジタルフォント開発、電子書籍ソリューションと、文字によるイノベーションを牽引し続けているモリサワ。今回は、同社のタイプデザイナー、吉村淳美さんの登場です。昨春以来、ほぼテレワークという環境で、真摯に新たな文字づくりに向き合う吉村さん。インタビュー前編では、学生時代の文字との出会い、就活、現在のお仕事について伺いました。

 

<後編の記事はこちら

 

友達から心配された就活

 

大阪デザインセンター(以下、ODC) タイプデザイナーになろうと思ったきっかけは?

吉村さん 私は、そもそもタイプデザイナーになりたいと思って就職活動をしていなかったクチでした(笑)。子どもの頃から絵を描くのが好きで、地元の愛知県立芸術大学に入りました。何かになりたいと具体的な目標があったわけではなくて、何になりたいか自分で見つけられるかなと思って。3年生の夏ぐらいまではイラストを描いて展覧会に出品したりしていたのですが、ファインアートで作家を志す同級生たちの熱量は自分にはないなと…。

デザインって面白いかもと思い始めた頃に、授業の課題で平仮名50文字を作るというものがありました。それまで、あまり文字って気にしたことがなかったのですが、改めて眺めてみると、文字には、いろいろあるんだなと。結構、当たり前に通り過ぎていた街の看板なども、それぞれが使っている文字で、いろんな情報を自分が受け取っていることに気づきました。ここは可愛いお店だなとか、ここはクールでちょっとお高いお店だな、みたいな。

それから、文字を使ったロゴのデザインとかをやり始めました。その時はまだ、将来、タイプデザイナーになりたい、とまでは考えてなかったんですけども。就活をする時に学務課の掲示板に、当時、タイプデザインを専門に担っていたモリサワ文研の求人があって、文字かぁ…面白そうだなと。

ODC どんな就活生でしたか?

吉村さん 友達から「大丈夫? 就活、してないよね…?」と心配されてました(笑)。かなり不真面目だったので、教授にモリサワの内定をもらったという報告をしたら、「え、吉村がモリサワ!? マジで!?」と驚かれて。本当にラッキーだったと思います。

ODC ポートフォリオはどんなものでしたか?

吉村さん 文字でロゴを作っていたもののストックが結構あり、それでページをたくさん作りました。あとは、モリサワを受験するときにちょっとレイアウトを変えました。実は、それまではあまりページ数が多すぎるのも良くないのかなと思って、1ページあたりにぎゅうぎゅうに作品を詰め込んでいたのですが、教授に「文字の会社を受けるんだったら、そこにたっぷりページを使って、一つひとつが引き立つようにしたほうがいいよ」とアドバイスをもらって。それも幸いして内定をもらえたのかもしれません。

ODC そのころ作られたロゴを見返すとどうですか?

吉村さん 結構ひどいなと思います(笑)。図形的に作ったモノが多くて。書体って数値的に作ると、目の錯覚を起こしやすいので。「錯視」と呼ばれるのですが、横線の方が縦線よりも太く見えたりすることがあるんです。結果として人間の目に綺麗に見えるかどうかが大事なのですが、そういう知識は会社に入ってから学んだので、学生時代のものを今見ると拙さを感じます(笑)。

ODC 今、携わっているお仕事について教えてください。

吉村さん 社内で企画開発している和文書体の拡張(※)や、外部のデザイナーと提携して行っている欧文書体と和文書体の企画をそれぞれ監修する仕事などをしています。ベテランのデザイナーと一緒にお仕事をする中で学ぶことも多く、さまざまな人と相談しながら仕事を進める感じです。新しい書体を開発するときも、特定のデザイナーだけが担当するということではなくて、私も漢字を開発させてもらったことがありますし、同期が提案して開発がスタートしたものもあります。若い人でも企画開発が行えるチャンスがあるのは、やりがいがありますね。
※書体の文字数を増やしたり、太さを変えたバリエーションを作ること。

 

 

ひとつの書体開発は、短くても1年

 

ODC 監修というのは、何かガイドラインなどがあるのですか?

吉村さん ガイドラインもある程度は用意されているのですが、デザイン上のこともチェックします。こちらから依頼した、こういうデザインの書体を作ってくださいという意図に沿うものに仕上がっているかを確認する、あるいは第三者の目で「ここはこうしたほうがいいのでは」という意見を出す場合も。作業の抜け・漏れがないかどうか、また、文字の過不足がないかをチェックしたりします。

ODC 何かは起こりうると。

吉村さん 社内・社外にかかわらず、ヒューマンエラーは起こりえます。欧文にしろ和文にしろ文字数が多く、フォントをパソコン上で機能させるためのコード情報や、きれいに組版をするために必要なメトリクス情報なども、1文字ごとにあるので。全部を完璧にというのは、なかなか難しくて、内製のものでも、お互いにチェックし合おうという感じです。

ODC いろんな目で見るのが大事なんですね。

吉村さん はい。細かい点を直さなければならないので、いろいろな目でチェックするのは大事です。客観的にここ変じゃない?とか、こうしたらいいんじゃない?とか言われたほうが、ありがたいです。一つの書体には、短くても1年以上かかるので、ずっとそれだけを見ていると頭が凝り固まってくるというか、ねじれた愛情が出てきてしまいがちなんです。また、文字数が多いので、最初に作った時と、最後に作った時では、自分の玄人具合も変わってきて、多少ズレが出てきたりもしますので。

ODC やりがいを感じるのはどんな時ですか?

吉村さん 街でその書体を目にした時です。最近では、「赤のアリス」という書体の拡張に携わったのですが、ちょこちょこ見かけるようになって、うれしいですよ。自分がかかわったものだと、喜びもひとしおです。同僚が作ったものでも、頑張って作っていた姿を知っているので、その書体を見かけると「街の人に認められたら、使ってもらえるんだな」と。励みになります。

 

赤のアリス

 

後編に続きます

 

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