トップインタビュー

2011.11.25

工業用金網からデザイン分野への挑戦

マツバラ金網株式会社 代表取締役東田 龍一郎氏

「右脳的感覚と左脳的感覚の両方を武器として」

金網産業が盛んな町・松原で、50年近く先人の技術を守ってきたマツバラ金網株式会社(大阪府松原市)。歴史ある地場産業の金網にデザイン性を持たせた商品である「デザインメッシュ」を開発し、新しい分野に挑戦している同社代表取締役・東田龍一郎氏に、デザインの必要性や新分野進出に向けた経営者としての心構えなどについてお話をうかがいました。

■まずは、御社のプロフィールについてお聞かせください。

当社は創業50年ほどになります。祖父の代から親子三代、工業用金網の生産を行ってきました。当社の金網は、ろ過用織金網、コンクリート補強に使われるクリンプ金網、コンベアーに使われるスパイラル金網などが主力製品です。
その一方で父は、有名な映画のワンシーンや絵画を趣味の作品として金網で再現するなどして、一時は、海外からの依頼で商品化の話もありました。また私自身にも、現場の人間の「金網といえば既存の分野でしか需要がない」というあきらめにも似た声に危機感を抱いていたことと、今までの自分たちのイメージにはない分野への挑戦をしようという気持ちもあったので、金網をデザインとして捉えるには良いチャンスでした。それが「デザインメッシュ」の開発の始まりでした。当初は知名度の低さもあり、なかなか受注には結びつかず苦戦し、PRの必要性を痛感しました。同時に、デザインに対する自分の意識も一層高まり、売れる商品とは何かを考えるようになりました。

■自社製品を知ってもらうために
どのような工夫をしてこられましたか。

PRを充実させるためにまずは、販促ツールが必要だと考え、製品カタログ制作に力を注ぎました。施主さんの全面的な協力により、実際の施工例の写真をふんだんに使ったビジュアル志向のカタログを目指しました。また、建築のプロがターゲットとなるので、人気のある建築雑誌のテイストをデザイン的に意識して、単に製品そのものだけではなく使われているシーンをリアルに伝える工夫を心がけました。
また、展示会にも積極的に参加してきました。私自らが展示会場に出向き、あらゆる機会を通じてエンドユーザーとコミュニケーションを図りました。ちょっとした会話がきっかけで取引が成立するなど、ビジネスチャンスも生まれました。逆に、金網素材の認知度の低さも再認識させられました。
金網素材、そして「デザインメッシュ」を知ってもらう場として、またビジネスチャンスの場として、展示会はとても大きな意味がありました。商品カタログと展示会の両方に力を注ぐことで、新たな販路の開拓にも取り組むことができました。もちろんこれらの販促ツールだけでなく、さらに新しい分野での挑戦者として、製品の創意工夫や研究開発にも真摯に取り組んでいくつもりです。

■デザインに対する意識の変化は、どのような波及効果をもたらしましたか。

類似製品はもとより、建物や景観など街でも気になるデザインがあれば、目が留まるようになりました。特に大阪で活躍しておられる著名な空間デザイナーの建物や施設には、何かを感じるものがありました。そして去年、そのお名前をco-design(大阪デザインセンターのデザインビジネス塾)パンフレットの講師欄で見つけて嬉しくなり、すぐに応募しました。そしてデザイン塾で教わった「形をデザインするのではなく、仕組みをデザインする」という言葉に、強く心が惹きつけられました。
また、視察訪問した中国やドイツ、ドバイなどで目を引く建築物を数多く見てきました。中には人々の興味を引くような優れた商業施設もありました。しかしその中でも、実際に入ってみたいと思わせるものもあれば、興味が湧くだけで終わってしまうものもあり、興味の引き方に違いを感じることも珍しくありませんでした。この考えは、自社の製品開発にも通ずると思いました。人の注意を「引く」だけでなく、「惹きつけるもの」でなければいけません。それが、私なりの「仕組みをデザインする」ということです。
デザインだけではなく、世の中の流れや季節など、人々が惹きつけられる要因はさまざまです。好景気にはメタリックなデザインが流行するそうです。金網業界にとってはチャンスです。その一方で、不景気には癒しやぬくもりのある質感を求める傾向があるといわれています。昨今の不況は、金網産業にとっても痛い逆風になり得るため、デザイン商品開発で広がった可能性を活かして、木の素材やガラスなど他の素材とのコラボレーションによる商品開発も視野に入れています。

■今後、工業分野とデザイン分野をどのように両立していかれるのでしょうか。

これからは、スペシャリストとゼネラリストの確立が必要だと思います。高い技術を誇る職人はまさにスペシャリスト。一方、アイデアマンとして遊びや冒険を提案していくのがゼネラリストのあり方です。私はゼネラリストでありたいと思います。そして、ゼネラリストとしての冒険の一つがデザインでした。ゼネラリストのデザイン力、冒険心、そしてスペシャリストの実現力。言い換えると、右脳的考え方と左脳的考え方です。この両者が支え合うことが大切で、また今後の成長にも大きく関わるのだと思います。右脳的感覚と、左脳的感覚。経営者として、そのどちらも事業の戦略に巻き込んでいきたいと思います。 工業分野のみならず、デザイン分野での商品開発にも力を入れるようになってから、自社の商品を街中で目にすることが多くなってきました。もちろん私自身には嬉しいことなのですが、それを目の当たりにした社員にとっても大きな喜びだったようです。社内で自信と誇りも生まれました。好きなことが仕事につながることは素晴らしいですが、仕事をしていく上でそれが好きになるというのは、事業を継続していく上で力強いバネとなります。今後も社員がそういう風に感じていけるように、自信と誇りを持って商品を開発しつつ、やり甲斐のある社内環境の向上にも努めていきたいと思っています。

マツバラ金網株式会社 代表取締役 東田 龍一郎氏
1964年大阪府松原市生まれ。監査法人系のコンサルティングファームを経て、1990年にマツバラ金網株式会社に入社。製造、営業、海外営業、企画など各部門を経て2002年代表取締役就任。積極的な新商品の開発と仕組みのグランドデザインを経営戦略の柱として会社の経営に取り組む。
大阪デザインセンターデザインビジネス塾第1期生(間宮塾)。