座標

2011.03.30

インハウスデザイナーとは

-役割の変化を考える-

ミズノ株式会社 商品開発本部 デザイン部 部長加藤 祐介

■はじめに

私自身、企業にデザイナー職として30年以上勤めています。スタッフから始まり管理職になりインハウスデザイナーとして様々な体験をして来ています。今回はインハウスデザイナーの役割について、最近の社内で起きている役割変化など紹介しながら、考えている事をまとめてみたいと思います。
ミズノでは、商品開発本部の中にデザイン部は位置づけられています。初めてのデザイナーが採用されたのが1967年で以来約43年の歴史があります。それまでは技術開発を強化していた時代であり、そのため技術開発部門の中の一デザイン担当者から始まり、増員されながら技術部隊との共存を主体に進化してきました。その後商品企画部への編入もありましたが、現在は商品開発本部の一部門のデザイン部として2006年に室からの昇格も果たして現在に至ってます。

■SOZO STUDIO活動について

現在、私達商品開発本部はSOZO STUDIOという開発理念の基、「ヒト」 「モノ」 「コト」のあらゆる情報から開発のアプローチを技術者、デザイナーが一体となって進めていく方法を実施しています。
(SOZO Hito Science)人体内で起こる現象の解析や心理面の研究を通じて商品を開発する手法
(SOZO Mono Science)素材や開発プロセスを変えていく事により、新しい価値を創造する手法
(SOZO Koto Science)世の中の流れやニーズ分析を基に商品開発に落とし込む手法
SOZO STUDIOの始まりは2002年で、研究、開発スタッフも消費者の目線に立ちマーケティングマインドを持って業務推進する事を風土にしていこうと進められた活動です。私はこの動きがデザイン部員の働き方や技術者との関係にも大きな影響を与えてきたと感じています。
その時に制定された「開発の掟」8か条があります。
1.先進性があること
2.存在の必然性があること
3.独自性が発揮されていること
4.市場に求められていること
5.他社よりも早く対処すること
6.プレーヤーと用具の調和が取れていること
7.顧客に便益をもたらすこと
8.夢をあたえること
これらは消費者の要求、市場性にもっと目を向けようとして定められた掟であると思います。
この活動推進の施策の一つに、商品開発本部の新しい機能としてニーズ開発チームをデザイン部に立ち上げた事も新しい動きとして特筆すべきポイントであったと思います。

■ニーズ開発チームの活動とその影響

商品開発本部にニーズ開発チームを作った背景には、どのようにしたら市場に受け入れられる商品が開発できるのだろうかという原点に立ち、強みとなる技術力を効果的に発揮するには、もっとマーケットを知らないといけないという反省があったのです。技術者は技術的発想だけでなく、マーケティング的発想も取り入れなくてはならないという考えに至った訳です。自分達の技術開発に自己満足するのではなく、いかにして自分達の技術を使ってお客さんに喜んでもらう事ができるか、という感覚を持つ事が求められたのです。
そんな中、デザイン部が消費者に最も近い感覚を持っているという事でニーズ開発チームがデザイン部に設置されました。最初は商品開発本部内の様々な技術力をどこに向けるかというニーズ開発からスタートし、今では各事業部の企画部門とも連携して様々なテーマを抱えながら商品開発本部の戦略的チームとして活動しています。スタッフには社内募集で加わったデザイナー以外の社員も加わっています。
具体的な業務内容ですが、まずニーズ開発のテーマを見つけ、その課題解決のための適切な人員を本部内で探し、プロジェクト活動を推進していく事です。テーマによってはそこに事業部のメンバーも加わる事もあります。様々なアンケート調査やグループインタビューの実施、分析から仮説立案をし、その検証を繰り返し行います。消費者の深層心理を的確に把握することで、求められる利便性だけでなく情緒的価値までも明確化していくところが重要であると考えています。データの分析からはデザインワークに必要な要求事項も明らかにしていきますのでデザイナーはその要求に対して外さない範囲で想像力を発揮できますし、デザインのディスカッションに関しても的を絞ってできますので質の向上と効率化が図れてきたと思います。
これらの活動をたくさん経験する中でニーズ開発メンバーは独自のスキルの発見や開発の手法を身につける事ができているように思います。また、調査背景や分析がしっかりとされている事でデザイナーの論理的な説明能力の向上に大いに役立ってきているようにも感じています。例えば、作り出した商品の造形美やコスメティックの意味を技術的見地からと消費者ニーズ分析からの論理的アプローチの両方の背景も含めて説明し、デザインの意味を納得してもらうというスキルの向上が少しずつですが実現してきているように感じています。

■事例:キッズシューズの開発

一つの事例を紹介してみたいと思います。 私達はキッズシューズの強化をテーマにチームを組んで開発スタートしました。まずメンバーでディスカッションを行い、現状把握、市場や他社デザインの分析を重ね、「子供目線」と「ママ目線」という切り口を見つけ、ある仮説を立てました。この仮説を基に何度もインタビューを重ねながら検証を行いました。
その中から母親の求める情緒価値はもちろん、年齢別での子供の気持ちの変化や、魅力を感じているデザインの表現等も詳しく調査し理解する事ができました。これらの結果により子供達が求める運動能力(かけっこで一番)をアップさせる設計開発、子供目線での子供が魅力に感じるデザイン表現だけでなく、母親達に情緒価値を満足してもらえるコミュニケーションの仕方にまで踏み込んで提案を実施していったのです。
そこから新しいコンセプトを創出する時点では企画部隊との協働になり、コンセプトの最も大事な基本部分を共有する事ができたので、シューズデザインのアウトプットだけにとどまらずパッケージ・副資材のリニューアルから展示会ブースの設計まで入り込んで一気通貫でディレクションする事ができました。ミズノキッズは「子供達のココロとカラダを応援します」(活躍する・できるようになる・自分と周りを大切にする・自由に創造する)を情緒価値として、コミュニケーションを行う事になりました。「本物の機能」+「子供/ママ目線」+「情緒価値」を柱に今後も商品企画、開発が進められていきます。また、副産物として子供達が運動会の他にドッジボールに関して強い関心を持っているというニーズを見つける事ができました。そこで私達は新たに子供達がドッジボールで活躍してヒーローになってもらうためのドッジボール専門シューズの企画を立ち上げ、日本初のドッジボール専門シューズ発売まで結びつける事ができました。これらの活動を見ても私達インハウスデザイナーの活動の場はプロダクトアウトだけに留まらず、コンセプチュアルな業務からアートディレクションまで領域を広げて活動する事が重要であると考えています。そのためにもニーズ開発チームが牽引役として今後もよりその精度を高めていけるようマネジメントしていきたいと考えています。

■川上からのデザイン

また、創業100周年を機に、2006年からスタートさせた新しいBIの導入に際してはデザイン部がそれを担って実行した事でデザイン部隊の役割も大きく変化しました。
BIデザインの開発に際しては、デザイン開発をスタートする前に、まずミズノの100年の歴史を一から調べ直しそこに脈々と流れる精神性、未来に繋がるメッセージを見つめ直し、それらを実現していくためのストーリーをまとめ上げました。経営陣へのデザインプレゼンテーションにおいてもそのストーリーをまず理解してもらうことに注力しました。そのベース作りができた後にデザイン検討の場を用意していきましたので、理解されたストーリーに合致した表現かどうかという選択基準を共有する事ができ、そのために難しいデザインの決定でしたが、ある個人の感性に流されることなく予想していたよりはスムーズに私達が推薦した案で納得してもらう事ができました。それから後はガイドラインを作成してマニュアル化を図ったり、すべてのタッチポイントデザインの変更を実行していきました。社内教育を計画実施し社員への啓蒙に努めたりもしていきました。国内だけでなくグローバル全部署に対してもデザインのコントロールを実行していったのです。これらの経験をした事で川上の部分でガイドラインやルールを決めデザインの思いを正しく伝え理解してもらいコントロールするという手法を体験する事ができました。何だそんな事かと思われるかもしれませんが、私達とすれば商品デザインのプレゼンテーションとは全く質の違いがあったのです。必然性のあるストーリーを創造し、納得してもらえばその後のデザインの表現に関してはイニシアティブが取れるという貴重な経験だったのです。
その後も各事業部別だったカラー使用に関してもカラーパレットやガイドラインを発信しカラーコントロール活動を強化したり、ビジュアルコンセプトを発信しFW(フットウェア)部隊とアパレル部隊のデザインや手法の水平展開を実現したり、いろんなテーマでその方面の経験を積んで行っています。
これらの活動と成果によって、事業部にまたがる課題解決を成し遂げるためには、デザイン部隊が効果を上げてくれる部隊として認識してもらえるようになったと思います。そういう意味でデザイナーは絵を描くだけでなく、最適な問題解決を客観的に「見える形」で、なおかつ具体的にわかりやすく示してくれる、ディレクションしてくれる存在であるという事が社内に少しづつ根付いてるように感じます。これまでのプロダクトデザイン開発担当から活躍ステージの広がりを見せたといえるでしょう。

■クリエイションとディレクション

元々は技術者の出す設計案を基にデザインを始め、機能とデザインの融合に努めたり、または事業部企画から出てきた企画コンセプトを足がかりにクリエイティブ業務に勤しんでというのが今までの姿だったのですが、私達デザイン部隊においては事例で述べてきたようにその役割の拡大からクリエイティブ能力だけでなくディレクション能力を加えた二つの能力を伸ばしていってインハウスデザイナーの重要性を社内に正しく理解してもらい、部門としての確かなベース創りと貢献を果たしていかなければならないと考えています。
また、私達は多くの外部デザイン事務所の力を借りながら膨大な量のアイテム(デザイン)を毎シーズンごとにアウトプットしていく責任も担っているため、各部員が色々なデザイン事務所とお付き合いしながらディレクションしていかなければ量をこなせない現実もあります。自分自身のクリエイティビティーを発揮しながら外部デザイン事務所もディレクションしなければならないという難しい業務をこなしていく必要があるのです。
インハウスデザイナーを育成する上でこの二つの能力をバランスよく育成するにはデザイナーの特性を見極めながらの根気のいる教育が欠かせません。二つの両方にも力を発揮できるような人材を育成する事は本当に難しいと感じています。
デザイナーには職人気質の強いヒトもいれば、ディレクション業務も上手くやれるヒトもいます。これらのデザインへの思いの違いを持つ集団の中から適性により育成の違いを的確にやらないとモチベーションの低下になりうる事もこれまでのマネジメントで体験してきています。この辺のバランスが本当に難しいし、上手くマネジメントできないとデザイン部としての能力向上が果たせません。よって、これからもいろいろと教育の仕方を工夫しながら、そのような人材育成に取り組んでいこうと思っています。

■最後に

その他に今私達は技術者との連携の更なる進化を図ろうと動き始めました。より近い存在となり開発の初めから深く係わり合い、お互いが持つ異言語の相互翻訳能力向上と、異能力を認め発揮しあう仕組み作りを強化しながら、明確な機能の裏づけがあり、かつ情緒価値をしっかり捉えた自分達らしい商品の開発強化を進めていきたいと考えています。 自分自身が体験したこの何年間かで起こったデザイン部での活動の変化を通じて感じたインハウスデザイナーの役割について述べてきました。これはあくまでも一企業の事例ですが、これをお読みの方々に少しでも参考にしてもらえればと思っています。

ミズノ株式会社 商品開発本部 デザイン部 部長 加藤 祐介
1955年長崎生まれ。1980年京都市立芸術大学卒業。同年、ミズノ株式会社入社。同社でゴルフクラブのデザインを担当。1999年ゴルフ事業部用具企画課へ異動。2003年商品開発本部デザイン部に戻り、デザイン全般のマネジメントを担当。
(財)日本ファッション協会 流行色情報センター専門部会委員。
(財)日本産業デザイン振興会 クリエイティブ能力開発研究会会員。