ケーススタディ

2010.3.31

海外市場におけるローカルデザイン

ダイキン工業株式会社

■グローバル商品開発の変化

欧州向けリモコンデザイン 欧州向け薄型壁掛けタイプデザイン

当社は空調事業を中心にグローバル化を進め、現在では海外事業比率が約65%に至りました。中でも、中国や欧州地域は近年空調機普及率が飛躍的に伸び、空調商品の激戦区となっています。これまでは効率優先のグローバルスタンダードの思想で、日本国内向けの設計・デザインをそのまま、もしくは部分的な意匠変更でデリバリーするのが一般的でしたが、近年では仕向け地のニーズをきめ細かく盛り込んだ専用設計・専用デザインが必要になってきました。以下、ローカライズの一例として海外市場専用商品を2つご紹介します。

■ニーズの違いに対応する

海外専用機のデザインを検討する上で、市場背景の違いが大きなファクターになってきます。国民性や生活習慣・風土の違いなどから地域によって好まれるデザインも変わってきます。しかし我々日本人が世界中のデザインニーズやトレンドを把握し、各地域の要望にタイムリーに応えるのは非常に難しいことです。欧州向けフラッグシップエアコンのデザインにおいては、欧州市場にフィットするデザインを強く要望され、現地デザイナーの協力を得てデザイン開発を行いました。欧州地域はモダンデザインの歴史が長く、日本市場とも好みが近いという印象がありましたが、実際のデザインワークに携わるなかで、彼ら独特の感性や造形に対するアプローチの違いなどを実感し、とても興味深い貴重な経験ができました。またリモコンのデザインではUDの観点から文字をできるだけ大きくし、ボタンの形状や色彩も同様に工夫を凝らすのが日本流ですが、欧州ではスッキリと整理された美しさが重視されるようで、日本の常識が必ずしも通用しないというのも1つの発見でした。

中国向け床置きタイプ。浮かびあがる表示。タッチセンサー方式の運転スイッチで表面は完全フラット 2009年発売の第2世代デザイン

■求められているものが違う

一方、中国向けのデザインは欧州と趣向が異なっています。当社は中国市場への参入が日系ライバル他社より遅かったため、まず業務用エアコンを中心とした販売戦略をとりました。そして家庭用エアコンへの進出においては富裕層をメインターゲットに置き、ダントツの高級機種に位置づけるデザインが営業の明確な要望でした。住宅用のフラッグシップである床置きエアコンの開発スタートに当たり、現地の高級マンションを何件か訪問したのですが、内装から持ち物に至るまで金やダイヤのような光り物がそこかしこにちりばめられ、大理石の床にパルテノン神殿調の柱、天井にはシャンデリア、壁にはダミーの暖炉と、存在するもの全てが高級感演出のアイテムといった雰囲気に圧倒されたことを覚えています。そんな部屋で負けずに主張できるエアコンのデザインとはどんなものなのだろうかと正直とまどいましたが、少なくとも日本的な価値観の、シンプルで、インテリアに溶け込むデザインでは完全に力不足なのだろうということだけははっきりと自覚しました。

■感覚のギャップを乗り越えて

コンセプトスケッチ

デザインモデルを持ち込んで現地でのヒアリングがスタートしました。日本でも受けそうなシンプルなものから、華やかさを演出するために色んな要素を盛り込んだちょっとやりすぎかな?と思えるものまで、バリエーションに富んだデザインのヒアリングはなかなか楽しいものでした。そして結果は満場一致で「やりすぎたかな?案」が選ばれました。自分の「良し悪し」の判断基準を超えたデザインの選択にまぐれ当たりのようななんともバツの悪い気分ではありましたが、その後のモデルチェンジデザインでは一発で高評価がもらえるようになり、開発を重ねる中で多少中国感覚が身に付いたのかなと、少々複雑な気分でした。中国専用機のデザインには、日本市場向けではタブーとも言える独特なデザイン処理を採用しています。特筆すべきは「金色」のあしらいです。日本市場での金の扱いは下手をすると「成金趣味」的なイメージが先行し敬遠されがちですが、中国では先述の豪華な室内に置かれることもあって、金の演出なしでは物足りないことが多いようです。ただ、ここ数年の日本市場を見ると携帯電話からエアコンに至るまで、金色をあしらった商品を結構見かけるようになりました。不景気の裏返しで、せめて見た目だけでも景気よくありたいという心理の表れでしょうか。

■生活をデザインする

商品開発において、今やグローバルな観点抜きでは語れない状況になっています。当社は世界シェア第2位のポジションにあり、独自の省エネ技術による環境先進企業を志しています。そして、エアコンの普及につれ活動領域も全世界規模に拡大してきました。空調機のような設備商品には本来趣味的なデザイン嗜好は不要なのかもしれませんが、世界の多様な価値観や暮らし方を否定せず、好意的に受け入れられる商品を提案し続けるために、デザインは重要なはたらきを持っていると考えています。

今村 竜太
ダイキン工業株式会社 空調生産本部 デザイングループ
辻 華一
東京造形大学卒業後、1991年ダイキン工業入社。主に空調機デザイン開発に携わる。