ケーススタディ

2010.10.30

生産財から生活者視点のデザインへ

株式会社クボタ 機械研究業務部 デザインチーム長 楠 忠氏

■農業の変化に応じたデザイン

当社は今年おかげさまで120周年を迎えることができました。長年にわたる事業活動の中で特に農業機械による食料の増産と省力化に対して暮らしと社会に貢献するさまざまな製品を提供してまいりました。
その中でも農業機械の主力ブランドはトラクタ・コンバイン・田植機です。またその主力ブランドも農業の2極分化により大規模農業と小規模・ホビー農業に分かれ、それぞれの変化に応じたデザインを展開してきました。そしてその代表例をご紹介させて頂くと共に今後の課題と取り組みを述べます。

■大規模農業のデザイン

大規模農業とは、作物の多収・高品質・低コストで合理化、対費用効果を狙いとしたプロ農家を対象とし、生産財の性格を持つ機能重視の機械が要求されます。
このような機械のデザインは、高性能な特長を力強い外観で可視化し、快適な操作周りを表現する事です。外観の提案においては、開発初期段階からアイデアスケッチとスケールモデルによる仮説と検証を繰り返して方向づけています(図1)。また操作部の使い勝手の提案では、ユニバーサルデザインの視点から使いやすさ、見やすさを追求し、数多くの作業に合わせた微妙な操作に拘りを持って原寸モデルで使いやすさの検証を行います(図2)。
製品具体化の過程では、試作機による販売第一線の評価、意見を聞きながら現場、現実を重視し、実際に田植えや稲刈りのテストへ参画する事で安全性、作業性、操作性、快適性を自分自身で体験し、プロの使いやすさを徹底検証しています(図3)。しかし、今後もプロのユーザーは効率を求め、厳しい判断で各社と比較し、購入されます。1台2000万円以上もする機械もあり、機能を重視しながらも高級感や高品質感を要求されるので、今後も更に満足していただける機械にしていかなければなりません。

■小規模・ホビー農業のデザイン

一方、小規模農業では中山間地や都市近郊の農家を対象とします。特に中山間地では環境保全が求められる美しい棚田などを守る農業が主体です。そこでは、高齢化や離農の問題がありますが、それでも農業を継続したいという人たちが居られます。そうした高齢者ユーザーに対して低価格で親近感があり安全で安心して使える機械の提供を目指しています(図4)。このような機械のデザインでは、高齢者が使用する事を前提に、ユニバーサルデザインの展開を原寸モデルで検証します。「見た目に使いやすく」を目標に居住性や乗降性を考慮し、操作レバー類は複雑にならないようにする事と握りやすい形状の提案や表示部は文字を大きくし解りやすくするなどを実施しています。
またホビー農業は、家庭菜園や園芸など女性も使用します。つまり、生活にゆとりを持たせる家電ライクな耐久消費財としての性格が求められます。今後の課題は、更に生活者視点で、趣味の延長として、遊び心で楽しく使っていただける提案と高齢者の方や女性の方が第一印象(ファーストタッチ)で使ってみたいと感じてもらえるデザインの追求が必要です。

■グローバルのデザイン

現在、当社は6割近くの輸出比率を有しています。その大半の市場は北米と欧州です。その発展は欧米の市場変化に迅速に対応し、日本農業で培ってきた経験(世界一の米作機械技術)が活かされ続けてきたからです。例えば水田の機械化による軽量化技術や高耐久性の技術がその一因です(図5)。
今後のグローバルな事業性を考えるとアジア市場への展開は必須です。そしてアジアが求める機械の条件は安価で高耐久です。現在、新興国のローカルメーカーは価格の上では有利ですが品質、耐久性では未だ認知されていません。しかし、それも時間の経過によって、やがて追随して来るでしょう。そこで私達はアジアの市場に対応し、「耕す、植える、刈る」の基本性能をおさえて超安価機の開発を目指し、機能品質プラス、外観と使いやすさ、更にクボタらしさの品質を向上させて、その競争に勝たなければなりません。
また将来的にはアジア向けに開発、デザインした安価で高品質な機械がアジア以外の日本国内はもとより、欧米へも安価で提供する事が可能となり、その相乗効果によって更に事業収益を拡大していきます。またその成功事例が米作機械以外の製品分野である野菜関連や建設機械、芝刈機などの製品デザインにも展開され、世界におけるクボタブランドが更に躍進するものと確信します。

■今後の取り組み

今後、当社の事業拡大に伴ってデザインの役割はますます重要になっていきます。
「For Earth , For Life」当社は創業120周年に新しいグループスローガンを制定しました。地球の美しい環境を守りながら、人の豊かな暮らしを永遠に支えていく食料・水・環境問題へグローバルに挑戦するクボタの約束です。今後も、この発信を真摯に受け止めて環境を意識したデザイン活動を実施していきます。

株式会社クボタ 機械研究業務部 デザインチーム長 楠 忠氏
大阪芸術大学卒業後、1986年、久保田鉄工株式会社入社(同社は1990年に株式会社クボタに社名変更)。主に建設機械、農業機械のデザイン開発に携わる。