ケーススタディ

2008.10.30

快適な視環境を求める照明器具デザイン

コイズミ照明株式会社

■コンセプトの背景

照明の仕事に関わり始めて約20年になります。当時、一般的な住空間の照明はどのような考え方であったか例を挙げてみたいと思います。部屋を明るくする照明器具の視点からインテリア要素の一部としての照明コーディネイトが主流となり、空間イメージに合わせた好みのデザインを光源やW数を目安に選んでいました。また、器具を吊り下げるペンダントといったスタイルから、天井に低く取り付けることにより空間との一体感を高めることのできるシーリング器具への移行が目につきました。照明には「インテリア」としての要素と、もう一つ、必要な明るさをとる「光の機能」がありますが、住空間での照明器具はダウンライトやスポットライトを除き、機能性の追求は低かったように思います。
しかし、近代照明の名作と呼ばれる製品の中には、インテリア性と機能を高い次元で両立した照明がありました。代表的な例としては、デンマークの建築家ポール・ヘニングセンによってデザインされたPHと呼ばれるダイニングペンダントです。光源からのまぶしさを抑えながら、何重にも重ねられたセードのすきまから出る美しい間接光がポイントとなっていて、光の効果についてよく考えられていると感心したことを覚えています。

■光の要素

照明器具のデザインについて理解していただくために、少し光の話をします。特にデザインに関わる部分として「配光」「輝度」「タスク&アンビエント」といったことが挙げられます。「配光」は、光がどのように器具から出るかということで照明器具デザインには大きな要素となっています。反射板で光を制御するスポットライトでは、同じワット数でも光の強さや表情は全く違ったものになります。興味があれば照明メーカーのショールームでもその違いを体感することができます。
次に光源や発光面の明るさの度合いを表わすものとして「輝度」があります。適度な輝度は人の目に心地よく、過度な場合はまぶしくて不快に感じます。また、視野の一部に強い輝度があると正確にものが見えなくなります。このようなランプからのまぶしさを「直接グレア」、ランプは直接見えないが反射がまぶしいことを「間接グレア」といって、照明器具デザインで注意する重要な部分となっています。ものを見るために必要な光を目的光(タスクライト)といい、照度で表わされます。照度は光を受けている面にどのくらい光の量があたっているかを示す用語で、その単位はlx(ルクス)を使います。
最後に「タスク&アンビエント」についてですが、照度を重視する部分が「タスク」、環境光にあたる部分が「アンビエント」に相当します。この2つのバランスが空間の中では大切となり、人間の心理面とも密接に関わってきます。

■適所適光のあかり

今回のケーススタディでは照明器具のE.L.H.シリーズの新製品ペンダントを取り上げてみたいと思います。その基本コンセプトは1998年から始まります。照明器具のデザインを考えることは、光のデザインを考えることともいえます。人は光によってものを見ることができます。従って、ものに光をあてるということは「どう見せたいか」の意図が大切になります。その意図を新たな考え方でデザインに取り込もうと始まったのがE.L.H.であり、その製品のデザインコンセプトです。
“E”NVIROMENT AND “L”IGHTING “H”ARMONY−環境とあかりの調和−をテーマに現在もそのコンセプトは継承されています。
条件設定が明確なダイニングを例に考えてみます。想定テーブルのサイズは6人掛けで2000×900。器具取り付けの高さはテーブル面から600〜800で3灯使用することにします。小型でコンパクトな器具を2〜3複数個使用するメリットは、テーブルサイズに合わせて配灯の調整幅が大きくとれることで、また空間に光のリズム感を生み出すこともできます。一方、大きなサイズの器具を使用する場合は、その空間の中心性が強調され多灯タイプとは違った雰囲気になります。細かい作業をするスペースでは1000lx程度の明るさが必要ですが、ダイニングの場合テーブルが照らされている範囲は300lx程度が一般的です。また、座った位置から光源が視野に入ってくるまぶしさも簡単な作図で確認することができます。
E.L.H.ペンダントは照明器具を中心として考えるのではなく、ダイニングの「光環境をつくる」ことからスタートしています。テーブル面の明るさはもちろんのこと鉛直面(縦方向)への光の広がりをみせることが、視覚的な明るさ感を演出するポイントになり、その効果によりくつろぎの場に集う人の表情を美しくみせることができます。そのため器具自体の発光感も重要な要素になります。フォルムは空間コーディネイトを意識し、あまり強く主張することなくモダンからナチュラルな空間まで幅広くマッチするシンプルなデザインを目指しました。

■光の表情をつくる

照明デザインは点灯することによって新たなイメージをつくり出します。デザインのポイントは光り方の表情の違いにあり、透明・拡散・反射の3つが大きな要素となっています。そのため、3Dのレンダリングでは十分に確認できない光のイメージは検討モデルでの確認になります。光源を反射板で遮った部分の影が不自然に見えたため、何度も位置関係を変えながら調節になりました。高効率実現のため光学的に設計された反射板はテーブル面への光をコントロールし、直接ランプを見せない働きがあります。また、内側を艶消しの梨地仕上げにすることにより照射面への光のムラを消しています。一方、折り返された反射板外側はキラッとしたクローム仕上げで透明ガラスとの間に視覚的な奥行き感をつくり出しています。このような光の考え方についてはイラストで表現しています。

■基本を大切に

デザインコンセプトには、時代背景に合わせて変えていく部分や発展させながら受け継いでいく部分があると思います。昨今、地球温暖化対策の問題が大きくクローズアップされる中、「環境とあかりの調和」を再認識して、新たな光源・素材・技術を取り入れながら照明デザインの世界を広げていきたいと思います。

コイズミ照明株式会社 店舗商品部 商品企画開発室 担当課長
川谷 融氏
1964年大阪府生まれ。1988年東京造形大学卒業後、小泉産業株式会社入社。住宅・店舗分野の照明器具デザインを中心に企画・開発・照明計画に携わる。