ケーススタディ

2008.07.30

人への配慮を重視した電気ケトルのデザイン開発

タイガー魔法瓶株式会社

■「まほうびん」とライフスタイル

「まほうびん」といえば、多くの人がガラスでできた銀色の瓶を思い浮かべると思います。まさに魔法のような保温力から、かつては生活の必需品として定着したものでした。その魔法瓶が電気で保温する「電気ポット」に置き換えられ、かつ電気で沸かす利便性を併せ持つようになりました。給水のたびにヤカンで沸かし移し替えるという手間も省けたのです。今では、省エネの観点から魔法瓶と電気ポットを組み合わせた電気まほうびんが主流になってきました。
一方、「短時間でお湯が沸くなら保温の必要性はない」とのことで、海外で主流となっている電気ケトルが市場に浸透してきました。使用状況や生活パターンなどから、一概にどちらがよいとはいえませんが、少なくとも現代のライフスタイルに電気ケトルが受け入れられることがわかってきました。

■電気ケトル市場参入への道のり

2005年に、弊社も新規参入を目指しデザイン作業を進めていましたが、市場に流通している仕様では、社内の安全規格をクリアすることができません。このまま安全性を付加していくととても重装備になり、電気ケトルの利便性が損なわれかねなかったのです。そして安全性と利便性の優先度合いを勘案し、やり直すことにしました。
ここでいったん白紙に戻し、安全性優先で再度設計を進め、デザインも一から起こし直しました。かなり大きな本体を持つものになりましたが、電気ケトル自体が強い商品力を持っていると判断して進めることになりました。予定より1年遅れです。細かな不安点は微修正で対応可能と判断し、着々と進められました。金型が上がり、試作品が上がってきます。ここで不安要素が現実となりましたが、まだまだ改善の余地があるとの思いで、開発スピードを上げていきます。ただ、残念ながら試作品が上がるたびに、必要な改善内容が増えてしまうという状況でした。

■苦渋の決断に迫られて

安全性追求のため、お湯の経路が複雑になり外観形状の影響もあって注ぎきれずに本体に残るお湯が多く、どうしても解消できません。また、本体が重くとても使いやすいとはいえないものになっていました。このまま進めるかやり直すか、検討が繰り返されました。しかし、改善できなければ商品化すべきではありません。よいものをつくらなければ発売できないというのは、メーカーとして当然のことです。結果として、再度白紙に戻し再出発するために原点に戻らざるを得ませんでした。

■本質を追求するということ

2007年、開発着手から2年が経っていました。前回の設計において改善が必要な部分を一つずつ潰していきます。この2年間を無駄にしないためにも、設計と検証が繰り返されます。外観もゼロベースからやり直します。ちょうどその頃、「デザイン理念」の見直しと明確化に取り組んでいました。
企業理念を成就するために、デザインは何をするべきかを改めて見直していました。結果的には、電気ケトルという製品の本質を追求するよいきっかけになったと思います。

■安心、安全、サッと沸く!

2008年、速く沸くという電気ケトルの特長は当然として、昨年の不満点を改善した安全性が実現できました。万一、転倒させても大量の熱湯があふれ出ることなく、また内容器をステンレス製にすることで安全で堅牢なつくりを実現させ、ふたを着脱式にすることで手入れもしやすくなりました。
過剰品質との意見もありましたが、お客様のくらしを考えた配慮です。外観は誰が見てもお湯を注ぐ道具として認識できるものとし、テーブルウェアのひとつとして、おいしさや香りを感じていただきたい、との想いでまとめました。また、日常生活に調和し飽きることなく末永く使っていただけるよう考慮しています。

■安全性と利便性のバランス

開発期間を通じての葛藤は、安全性と利便性のバランスでした。企業やデザインの理念を熟慮すると、どうしても避けられないものがあります。もちろん商品の魅力も重要な要素です。ものづくりにおいて必要なものを全て洗い出し、どうバランスをとっていくのか、そのバランスの違いが企業の個性だと思います。

■デザイン理念について

「笑みがこぼれ、会話がはずむ、それはすてきなくらしが奏でる幸せのハーモニー。私たちは、くらしを見つめ、時代を見つめ、安心と信頼の製品づくりを通して、より快適で豊かなくらしをお届け致します」。これが弊社の企業理念です。では、具体的にどう商品に展開するか、指針をまとめてみました。

上記指針は、簡略化しましたので言葉のとらえ方など個人差があると思われますが、意味合いは感じとっていただけると思います。この指針が全てではありませんが、迷った時は立ち止まって、見直すよう心がけたいと思っています。

タイガー魔法瓶株式会社 ソリューショングループ商品企画チーム
渡辺 正弘氏
1986年タイガー魔法瓶(株)入社
(社)日本インダストリアルデザイナー協会正会員
「自分でデザインしたものを日常生活で実際に使ってみる。そうすると、何が必要かがはっきりと見えてきます。この貴重な体験を通して、お客様の心豊かな生活をお手伝いさせていただきたいと考えています」(談)